MAD BURGER 美味しすぎる狂気のハンバーガーショップ

はじめに

私はバーガーが大好きである。朝から晩まで3食ハンバーガーを食べていたいほどに、生まれ変わったらハンバーガーになりたいほどに、ハンバーガーが大好きである。中学高校時代は聖地巡礼のように足繁く各地のマクドナルドへ友人と通い長居したものである。大学に入学してアルバイトを始めてからは金銭的に余裕もでき、学校も都内であったことから、「いつか女の子とデートするときのために」と思って、お洒落で少し敷居の高いハンバーガー屋に踏み入れたことが全ての始まりである。今回は渋谷にある、いまだに筆者が実際に女の子と二人で来ることのできていないハンバーガー屋を紹介していこう。

※下記紹介文では参考として筆者撮影の写真が掲載されているが、筆者の写真撮影のセンスは「子供が生まれて初めてカメラを持った時のそれに近い」と友人から好評価を得ているので、あらかじめご了承願いたい。


1.MAD BURGER

日本には多くのハンバーガーショップが所狭しと肩を並べるが、こんなぶっ飛んだネーミングの店がほかにあるだろうか。直訳すると「狂ったバーガー」である。バーガーの前にネーミングが狂っている。筆者の主観だが、外装も心なしか不気味に見える。

狂ったバーガーショップ:筆者撮影
店名MADBURGERの周囲に張り巡らされた鉄格子のようなものは何を表すのだろうか…。


いったいどんな狂ったバーガーが飛び出してくるのだろうか。私は抑えきれぬ好奇心につられ、店内に入る。しまった。やってしまった。「好奇心を餌に集客をする」集客の基本ではないか。まさに店側の術中にハマった私は、浅はかな自分の行動を恥じつつ、店員さんに案内されるがまま席に座る。「ご注文お決まりになりましたらお呼びくださいませ」店員さんはそんな私の行動をせせら笑うかのようにこれでもかと笑みを向けてくる。いけない。向こうのペースに乗ってはだめだ。

店内内装がとてもお洒落

さっそくメニューに目を通す。

流石はMAD BURGERといったところか。メニュー表さえ狂っている。私は今までにこんなにも高いハンバーガー屋のメニュー表を見たことがない。DUBLE CHEESE BURGER1つで1940円だ。実にマックのダブルチーズバーガーの4倍の価格である。英語表記に理由があるのかもしれない。

私は感じた。「試されている」と。行くしかない。この英語表記の狂った価格設定のバーガーを食わねば負ける。何かに負けてしまうのだ。私は覚悟を決め、店員さんを呼ぶ。「すいません」「お伺いいたします」先ほどのせせら笑いの店員さんが来た。



メニュー表


負けるな。踏ん張れ。尻込みするな。

さあ、言うのだ。DUBLE CHEESE BURGERの名を。Rの発音に気を付けて正しく言うのだ。


「スタンダードバーガー1つください」


やってしまった。

「スタンダードバーガー」。メニューの端の端。参考イメージさえ載っていない文字だけのそれは店側からすれば、こんな安いバーガーを買うわけありませんよね。という意思の表れである。負けた。完全に負けた。私はお洒落系インフルエンサーデビューを飾ることができなかった。これではインスタに「マジ美味しかった♡」とバーガーよりも光飛ばしまくりの自分の顔のほうが目立つ承認欲求ダダ漏れの写真を載せることができない。


「サイドセットにナゲットはいかがですか?」


耳を疑う。


狂っている。狂っていやがるこの店の金銭感覚は。

この店員はバーガー1個に1080円かけることさえ惜しむ私にさらにサイドをつけろというのか。

断れ。断るしかない。私には到底できない贅沢だ。ナゲット3つに270円もかけるくらいならパズドラに課金するほうが何百倍もマシだ。


「お願いします」


思い出した。

私は日本人だった。

そうだ、日本人。相手を思うあまり人に勧められたことを断ることなどできない人種。この店員さんは、この店員さんはすべて見抜いている。世界最高峰のメンタリストが、ここにいた。この状況を支配しているのは私ではない。目の前の、この、店員さんだ。

悲劇はまだ終わってはいなかった。


「ではお飲み物は何になさいますか?」


上手い。接客が本当に上手い。感動さえ覚える。

本来、サイドセットをつけたところで飲み物まで安くならないシステムであることは私にも理解できている。しかし、当然のように飲み物を聞くことで断ることなどできない環境をコンマ数秒の間にこの店員さんは作り出した。ここはただの売り買いの場ではない。DAIGO vs Mr.マリックばりの高度な心理戦が、潰し合いが今、ここ渋谷の郊外で繰り広げられている。


しかし、攻められてばかりの私ではない。お金のない私は飲み物のメニューを見なければ良いのだ。そしてこう答える。

「お水もらえますか?」

完璧な作戦だ。イメージはできた。あとは店員さんに向かって注文するだけで勝利とは言えずとも、九死に一生を得る形でこの場をしのぐことができる。


「じゃあ、おみ―――」


その時だった。

顔を上げ、私が勝ち誇った顔で店員に水の注文を伝えようとしたその時、見覚えのあるあの文字が目に入った。

目の前に


{Coca-Cola}

普段人間が使うことができないとされる脳機能の95パーセントが私の潜在意識に働きかけ、私は思わずその言葉を口にしてしまった。


「コカ・コーラ」


完敗だ。完敗だった。

最初からこうなることが見抜かれており、椅子の配置も、案内される席もすべては店員の計算のうちだったのだ。

私はマックのハンバーガーの10個ぶんにあたる1080円のスタンダードバーガーに加え、270円のナゲット、300円のコーラまでまんまと買わされてしまった。笑いたければ笑っていただいて構わない。私はそれだけのことをしてしまったのだ。これは潰し合いなどではなかった。すべてはこの店員さんの思うがまま、掌の上、引き回される鼻面。

私などこの店員さんにとってミジンコ以下の存在にすぎなかったのだ。


「かしこまりました!コカ・コーラですね!」


店員さんの声で我に返る。それと同時に私は今回の目的は新しいハンバーガー屋さんの実地調査であったことを思い出した。こうしてはいられない。私はiPhoneをストップウォッチ機能に切り替える。注文したものが出てくるまでの時間を測るためだ。もしこれで少しでも待たされたならば、せせら笑いの店員さんに反撃ができる。食べログで評価をつけてや―――        


「お待たせ致しました。お先にお飲み物失礼いたします!」


たぶん世界記録


速い。

圧倒的速さだ。

コーラが、出てきた。

お洒落なグラスに入った、コーラが出てきた。


気づくと私のストップウォッチを持つ手が震えていた。

30秒を切っている。

おそらく世界新記録で間違いないだろう。私は、目の前で、記録的瞬間を目にしたのだ。もうやめてくれ。おそらく店員さんは私など最初から眼中にない。自分との闘いなのだ。私が反撃できる余地など微塵もなかった。世界最高峰のメンタリスト兼トップアスリート兼ウェイトレスが、目の前にいた。


私は現実逃避がしたくなって目の前のメニュー置きに目を移した。

MAD THINKING

HOW TO EAT A BURGERの4番に注目していただきたい。

お分かりいただけただろうか。

要約すると、「油を直接飲もう」と書いてある。まさにMAD。まさに狂気。ターゲット層が全くもって掴めない。私はこの店のターゲットは女子大生を始めとするインスタ盛り盛り、量より味より自分の見た目派写真大好き系女子だと考えていた。しかし、よくよく考えていただきたい。そんなお嬢様方は油を直接お飲みになるだろうか。そもそも、油を飲もうとするターゲット層はこの世に存在するのであろうか。MAD BURGERのターゲットはどこにあるのか。ストライクゾーンが半径5mくらいあるのだろうか。


「お待たせしましたー。スタンダードバーガーです!」

「スタンダードバーガーwithナゲットandコカ・コーラ」


ついにメインディッシュが来た。タイムも相当早い。先ほどのコーラもそうだが、「お待たせ」などしていない。これは店員さんなりのジョークなのか。それとも恋人同士の待ち合わせで遅く来た方が必ず言う「お待たせ」なのか。この店員は私と恋人関係になりたいのか。ならば答えは明確である。「ううん。私も今来たところ」である。いや待て、どこに来たのだ。はたまた「お客様は待ってなどいませんよね」という皮肉なのか。ならば私は笑うべきなのか。だめだ。綾波レイと同じように、私はこんな時どんな顔をすればいいのかわからない。教えてくれ碇シンジ。


「いただきます」


考えていても始まらない。私はハンバーガーに手をつける。匙はなげられた。もとい賽は投げられた。

早いということは手がかかっていないのではないのか。早かろうはまずかろうと。

しかし、この時の私にはどんな味なのか想像さえできていなかったことをまだ知る由もない。


2.実食

ついにハンバーガーを食すときがきた。

私は我慢できず、人目も気にせず思い切りかぶりついた。


ハンバーガーを頬張った瞬間、「うまい」に必要な全てが口の中に宿った。


美味い。美味すぎる。この世に、ハンバーガーに、ここまでのクオリティを求めてよいのか。

まず舌触りの良いパン。外はカリっと焼き上げ、それでいて中はふわっふわな触感である。ゴマも効いていて単色な味ではないのがミソだ。次に感じるのは肉のうま味とシャキシャキのキャベツである。持論であるが、ハンバーガーには肉とキャベツの黄金比があり、どちらかが主張しすぎてもハンバーガーとして全体のバランスが崩れる。その点このスタンダードバーガーは、口の中で噛まずともとろけるほど柔らかい肉と、新鮮なキャベツのみずみずしさが完全にマッチングしている。肉自体にソースなどはかかっていないがキャベツにかかっているおそらく野菜由来のフレンチ風味のドレッシングがうまく口の中で踊り、肉のうま味をめいいっぱい引き出している。肉汁は全部飲んだ。

ボリュームも満点だ。

ナゲットとポテトもよくあるチンして食べるような安物ではないことが一口でわかった。しっかり揚げているのであろう。ポテトは無駄なこってり感がなくしつこくない。さらに味付けがソルトではなくブラックペッパーであることも味に楽しみを与えている。ナゲットはその外皮まで肉が詰まっており、肉の繊維が歯ごたえでわかるほど濃密であった。また、コカ・コーラはハンバーガーに世界一合う飲み物だと再認識させられたことも忘れずに述べておこう。


私はハンバーガーを食べ終えた後、入店前より少々大きくなったお腹を抱え、お支払いに向かった。


私にはスタンダードバーガーを食べる前と食べたあとでは世界が違って見えた。


「お会計は1500円でございます」


とても笑顔の素敵な先ほどの店員さんがそこにはいた。

私はまたこの店に来るのだろう。

その時私はふとつぶやいた。


「ごちそうさまでした」


店員さんのためではない。狂ったハンバーガーのためだ。



あとがき

今回調査を行ったのはマッドバーガー渋谷店さん(〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-2-13 TEL.03-6427-4989 FAX.03-6427-4990 http://madburger.jp/ )である。

文章は主観的な部分が多いです。ご了承ください。

今回は幾千のハンバーガーを食してきた筆者も唸るほどおいしいハンバーガーを食べさせていただいた。食費を気にしてスタンダードバーガー以外も食べなかったことは後悔である。また何度も通って全てのメニューを食破したい。


MAD BURGERが本当に素敵なハンバーガーショップであると知っていただければ幸いである。


※わかっているかと思いますが、記事の中に出てくる店員さんは非常に笑顔の素敵な方でしたし、お店も非常にお洒落な店舗です。上記の思い込みはあくまで筆者の空腹と、壊滅的なカメラのセンスによるものです。


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